迷子の衝動

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1000人殺したおじいちゃん - アクト・オブ・キリング

この写真を見てもらいたい。

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(C)Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012

孫を抱き笑顔の好々爺。どこにでもいるおじいちゃん。このアンワル氏が他の人と違うのは、1000人もの人を殺めた過去があるということだ。

1965年9月30日、インドネシアでクーデター未遂事件が起こる。この事件以降、インドネシア初代大統領スカルノ氏(デヴィ夫人の夫ね)は失脚し、スハルト氏に政権交代する。実はその裏で未曾有の大虐殺が行われていたのだ。殺された人の数は100万とも200万とも言われ、ターゲットとなったのは共産主義(と思われる)罪のない人々。農民や華僑というだけで殺された人も多くいる。虐殺を行ったのは、政府や軍ではなく、プレマン(freemanの意)と呼ばれるチンピラやヤクザ。写真のアンワル氏は虐殺の加害者として1000人殺したと言われている。それほどまでの虐殺を西側諸国は黙認した。日本も例外ではない。

1000人も人を殺したのだから、罪を償うべきだろうと思われるかもしれない。しかし、現地では英雄と尊敬される存在だ。「共産主義=悪」を倒した人だから。虐殺の加害者で、英雄とされる彼らに「自分のしたことを映画にしてみませんか?自分のした殺人を演じてみませんか?」と持ちかけ、完成したドキュメンタリー映画が「アクト・オブ・キリング」だ。

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映画『アクト・オブ・キリング』予告編 - YouTube

 

恐ろしいほど、笑える映画です。

聞いただけでげんなりするような重い映画と思われるかもしれない。しかし、目の前で繰り広げられる「アクト・オブ・キリング(殺しを演じる)」はシュールで滑稽で思わず笑ってしまうのだ。映画やアニメでのブラックコメディは個人的には凄く大好きな手法で、この映画も例外ではなく、作り手も意図的に笑かそうとして作っている。演技に慣れていないおっさん達の熱演、やたら女装したがるお腹の出たおっさん、過剰な特殊メイク、思わず吹き出してしまう。しかし、ふとした時に「あれ?笑って良いんだっけ?」となる。なぜなら彼らは加害者で、昔起きた大虐殺を誇らしげに演じ、目の前で繰り広げられていたことをリアルに体験したのだ。拷問、尋問、殺害方法。やっていることはとにかく身震いするほど恐ろしい。恐ろしい、笑っちゃう、恐ろしい、笑っちゃう、となって何が何だか分からなくなってくる。

加害者から見た大虐殺

虐殺を描いた映画は被害者側の視点で語られることがほとんどだ。このドキュメンタリーも最初はそのように作られる予定だった。しかし、被害者は一切話したがらないし、政府からの圧力もあり映画にならなかった。「アクト・オブ・キリング」には被害者がほとんど出てこない。加害者の証言がほとんど。そしていろんな加害者が登場する。自分のやったことに罪悪感を感じていない、自分のやったことを客観的に受け止め「そういう時代だったからしょうがない。」「他の国だってやってる。」「良いか悪いかは勝った方が決めること。」とおっしゃる人。主人公とも言えるアンワル氏は、自分のやったことを誇らしげに思っている、ように見える。しかし、よく悪夢にうなされ、殺人を演じているうちに、悪夢の回数が次第に増えていく。

人ごとじゃねえ

悪夢が増えていき、アンワル氏にこの映画の撮影が何らかの心境の変化を与えていることが映し出されている。この映画にはアンワル氏をはじめ、一般的には「超悪い人」とされる人が多く登場するが、なんというか親近感が湧いてしまう。こういう人、身近にいそうだなーって。アンワル氏も1000人殺した人とは見た目ではとても分からない。孫を大事にする良いおじいちゃんだ。観客は「悪」とは何か分からなくなってしまう。「悪」とはそういうものだ。1000人殺したおじいちゃんと自分は関係ないと思っているかもしれないが、大間違いだ。もし、そういう時代に自分がいたらどうだろう。同じ立場にいたらどうだろう。人を殺してしまうのだろうか。「暴力」や「悪」についての映画は数多くあれど、ここまでありのままを見せた映画はないだろう。

ANONYMOUS

エンドロールに更なる驚きが待っていた。「ANONYMOUS(匿名希望)」のオンパレード。「アクト・オブ・キリング」のヤバさを物語っていた。共同監督ですら「ANONYMOUS」だ。命懸けで作ったといっても全く過言ではない。アメリカ人監督のジョシュア・オッペンハイマーはもうインドネシアに行けないだろう。

 

インドネシアの歴史なんか知らなくても全然大丈夫な映画です。映画史に残る大傑作であることは間違いないでしょう。この衝撃はどんなに言葉を並べても、見た人にしか伝わらないと思います。おすすめです。