迷子の衝動

好きな映画や音楽のお話を。

映画感想:「薄氷の殺人」「激戦 ハート・オブ・ファイト」「二重生活」

1月に観た映画はどれも面白かったのですが、特に『薄氷の殺人』『激戦 ハート・オブ・ファイト』『二重生活』の中国・香港製作の3本が素晴らしかったのでご報告いたしまーす。


薄氷の殺人 

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映画『薄氷の殺人』予告編 - YouTube

昨年、第64回ベルリン国際映画祭において、最高作品賞である金熊賞と、男優賞をダブル受賞した注目作です。これ、2015年始まったばかりでアレなんですが、個人的には今年ベスト級の作品でした。決して万人に受ける作品ではないと思います。むしろ退屈に思われる方がほとんどではないでしょうか(劇場でいびきが聞こえてきたし)。ただ、好きな人はめちゃくちゃ好きなのではないかと。筆者は好きすぎて2回鑑賞しました。

ストーリーに目新しさはあまりないかもしれません。火曜サスペンス劇場にありかねない話だとという感想もよく見ます。確かに物語の終盤に断崖絶壁が出てきて「わたし、そんなあの人がどうしても許せなかった・・・!」みたいな自白シーンが出てきかねない(本作にこのようなシーンはありません)ようなストーリーであります。そんなお話が、淡々と、大きな盛り上がりがなく進んでいくので、眠くなっても仕方がない思います。

しかし、まるで昔の白黒傑作ノワールを見ているような感覚、画面から漲るヴィジュアルセンス、何とも言えない独特のリズム感。うーん、フェティッシュ!断然好きなタイプの映画でした。ここまで来るとエロスを感じます。僕にとってのポルノです。ええ。

エロスを感じると言いましたが、実際、本作のファム・ファタールを見事に演じきった台湾人女優、グイ・ルンメイさんが物凄くエロかったです。一切脱いでないのに迸るエロス!そして幸薄そう!この手のノワール映画で、ヒロインが「美しいが故に損してる感」ってすごく大事だと思うんです。そういう意味でも完ぺきでした。ナイス、タートルネック

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主人公の元刑事を演じたリャオ・ファンも素晴らしかった。男優賞を取ったのも納得です。スクリーンから酒と煙草の匂いが漂ってきそうな、だらしなさ加減が最高でした。

寒々しい地方都市、石炭、氷、踏み鳴らされて汚れた雪、スケートリンク、ゆらめくネオン、そして白昼の花火・・・。全てが現在の中国を投影しているようで・・・ああ!また観たくなってきた!ディアオ・イーナン監督の次回作にも期待大です。

 

激戦 ハート・オブ・ファイト

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映画『激戦 ハート・オブ・ファイト』予告編 - YouTube

2013年の第26回東京国際映画祭で話題だった作品がやっと一般公開。待ちくたびれましたよ!絶賛しか聞いていなかったのでだいぶハードルを上げていきましたが、期待以上に面白かった!最高に燃える映画、もとい、萌える映画でした。

簡単に言うと総合格闘技版ロッキーです。ロッキー映画で重要なのはやっぱりトレーニングシーン。戦う理由を見つけ、無心に打ち込む姿を映すことにより、試合シーンでの説得力が増します。先ほど萌える映画と言いましたが、主人公2人(ファイとスーチー)のトレーニング、というよりスキンシップが微笑ましい。萌えなわけです。きゃっきゃうふふしながらトレーニングする様が萌えなわけです。挙句の果てに寝技で絡み合いながらキスをするという、腐女子大喜びなサービスシーンも用意されています。

そんなこんなで鍛え上げた肉体美がこれです。こちらはチー役のエディ・ポン。

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撮影当時48歳だったニック・チョンにいたっては、最後の追い込みで水分を摂取しない「脱水」を行ったとか。体から水分を抜くことでより筋肉がより際立って見えるそうです。

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こんな体で臨んだ試合シーンは超本格的。本当にプロみたいでした。ニック・チョン、指の骨を折ったそうです。やりすぎ・・・。

総合格闘技とは別のドラマシーンも非常に良かったです。なぜ彼らが戦わなければならないのか、の裏付けにもなっていました。の不注意から息子を失ってしまった母親(クワン)とそれを支える娘(シウタン)。複雑な問題を抱える親子の家に、ファイが間借りすることになります。ここで本作のもう一つのテーマ、「家族のあり方」が提示されるんですね。

そして、またここでひとつ萌え要素、シウタン役のクリスタル・リーちゃん。めちゃくちゃ可愛かった。ファイとシウタンがきゃっきゃうふふするシーンがまた微笑ましくて・・・後に起こる悲劇がより際立つわけです。

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テーマソング、サイモン&ガーファンクルのサウンド・オブ・サイレンスがまた絶妙。そんなんずるい。泣くしかないじゃないか!

ダンテ・ラム監督の名前はよく聞いていたのですが、今回が初鑑賞。2月には『クリミナル・アフェア 魔警』が公開されます。こちらも主演はニック・チョン。見るっきゃない!

少々熱くなってしまいましたが、熱くならざるを得ない傑作でございます。

 

二重生活

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『二重生活』予告 - YouTube

2012年、第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門においてオープニング上映された作品。監督のロウ・イエは『天安門、恋人たち』で天安門事件を扱ったため、5年間の映画製作禁止という処分を受けました。5年のブランクを空けて国内で正式に製作されたのが本作になります。

冒頭、女の子が車にひかれて死にます。一見事故死に思われた事件の裏に隠された真実とは・・・。『薄氷の殺人』同様、火曜サスペンス劇場のようですが、こちらはもっと昼メロっぽいです。夫と妻と愛人が織りなす愛憎劇。事件はスパッと解決してくれません。全く釈然としないまま、結末を迎えないまま、生きづらさを抱えながら、映画の中の登場人物は生きていくのだなぁ、なんだかなぁ。と、阿藤快状態で劇場を後にする羽目に。この釈然としない二重生活、常に矛盾を抱えた状況こそが、現代中国社会を象徴しています。男尊女卑、ひとりっ子政策、社会の歪みこそが事件の要因。ミステリーを通して間接的に社会へ問題提起してみせる。これぞ映画の醍醐味。

『薄氷の殺人』と『二重生活』をセットで見ることで、より中国の今が浮かび上がって来るような気がします。

香港ではもともと映画産業が盛んですが、返還後、急速な経済成長と共に大陸側での映画熱も急上昇中。ハリウッドでも中国資本の映画が増えました。その一方で、中国製作となるとまだまだ検閲が厳しいという現状もあります。『薄氷の殺人』も中国では一部暴力シーンをカットしたバージョンしか上映されていないそうです。

経済が成長する一方で格差が生まれる、社会が先進しようとする一方で前時代的な政策が壁となる。そういった歪みが、これらの傑作を生んだような気がします。